創業100年を超す安川電機は、サーボモーター、産業用ロボット、インバータなどの分野で、高いグローバルシェアを持つ国内有数の企業だ。家電メーカーではないので一般には馴染みの薄い会社かもしれないが、SFアクション映画の傑作『ターミネーター』に同社のロボットアームが登場したことがある、なんてトリビアを聞くとぐっと親しみを覚える人も多いのではないだろうか? 第一合成と同社の関わりは約20年以上前にさかのぼる。工場の生産ラインの空間をレイアウトするのに必要な作業台やシューターを筆頭に、電子基板を納めるためのラックトレー、コンテナーなどを数多く納入しているが、そこには第一合成が得意とする、ある技術が関係している。現在、入間事業所に勤務する小林孝さんに話を聞いた。
小林弊社のように、電子部品を扱う工場では静電気が大敵なんです。特に電子基板に使われている部品は、ちょっとの静電気でも壊れてしまいます。しかも、そのトラブルが輸送、保存、作業工程など、どのプロセスで起きたかを特定するのも困難です。となると、あらゆる場所で静電気を抑える対策をするしかない。そこで、第一合成さんが得意とする静電気対策、導電化による除電が頼りになるんです。
導電とは、その名のとおり金属などが電気を通す性質のこと。物質によってその通りやすさは変わるが、急速に電気が流れたり、ある部分で電気が急に止まったりすると精密機器を壊してしまう。そこで、速すぎず遅すぎずの絶妙な導電のコントロールが必要になるというわけだ。そのために入間事業所の工場では、作業者の服、靴、机、床に塗布するワックスまで、すべてを導電性にしている。さらに静電気を発生させやすい乾燥を避けるために、湿度が50%以下になると自動的にミストを発生させる装置まで完備しているそうだから、その念の入れように驚かされる。
小林第一合成さんに納入していただいているのは、部品を入れておく箱から、その箱を生産ラインで流すためのシューターまで多岐に渡ります。そのすべてに繊細な導電性が必要になりますから、そうすると非常に高度な技術と経験が求められるんです。例えば、このコンテナー……。
と言って、小林さんは真っ黒なコンテナーの角を紙にこすりつけた。するとこすった部分に炭のような黒い痕跡が残った。
小林鉛筆に使うカーボンをポリプロピレンに練りこんだ素材でつくっているので、こんな風に字も書けちゃう(笑)。カーボンは優れた導電性を持っているので、静電気対策にはぴったりなんです。
例えばラックやコンテナーであれば、部品とラインの数だけ、いや、そのさらに数十倍の量が必要になるだろう。となると、その生産工程やモデルもシステマチックに完成されきっていると考えるのが普通だが、安川電機と第一合成の場合、決してそうとは限らないらしい。
小林かたちが決まっているのは1割程度で、残り9割はほぼオーダーメイドなんです。バラバラになった部品を生産ラインに供給する必要がありますから、部品のサイズごとにコンテナー内の仕切りの大きさや数もそのつど変わるわけです。
それ以外にも、作業者には身長150cmくらいの人もいれば、180cm以上の人もいますから、シューターには個人ごとに高さを調整できる昇降の機構が必要になります。以前は自動車整備に使うジャッキみたいな器具で調整しては外して、っていうやり方だったんですけど、それだとあまりにも非効率的。そこで第一合成さんと協力して、鋳物製のハンドルを開発したりしました。そういった、細かくて地味だけれど、理想の作業環境には欠かすことのできない道具を一緒に作ってきたんです。
AI技術や最先端のオートメーション化といった高度な技術が詰まった工場だが、本当に大切なのは「人」なのだと小林さんは言う。製造の現場に足を運び、ラインで働く作業者の人たちの声を聞き、働きにくそうな箇所があれば改善できるように工夫する。視覚、聴覚、嗅覚といった五感を働かせることは、これまでもこれからも、ものづくりに必要なセンスとスキルなのだ。
小林今年で入社36年目ですが、最初は製造に入って、途中から現在の生産技術に移りました。そのときにある上司から言われて心に残っているのが「ラインで働いている人たちを自分のお父さんやお母さんだと思ってください」という一言です。
もしも自分の両親がここで働いているとして、疲れやすかったり、匂いがひどい環境にずっと居させたくはないですよね。生産技術にはもちろん技術や経験が必要です。でもそれ以上に、仕事すべてにこだわりを持てること、人と密にコミュニケーションを取れることが大切なんです。その意味で、私の面倒くさくて細かいオーダーにも相談にのって、阿吽の呼吸で道具をつくってくださる第一合成さんは、最良のパートナーです。
さまざまな分野の工場に製品を収めている安川電機は、顧客のニーズに寄り添うことを大切にしながらさまざまな製品を開発してきた会社だ。そんな同社の理念と、オーダーメイドの「箱」づくりをしている第一合成のニーズを形にする考え方は近い。そんなところにも、最良のパートナーシップを生む共鳴があったのかもしれない。
安川電機ホームページ:www.yaskawa.co.jp