第一合成では、創業以来お客様へ新しい価値の提供をめざし、さまざまな製品の開発、提案を行ってきた。そのひとつが、クワによる植栽作業を機械化する苗木植栽機「柾樹」。ガソリンエンジンを使って1枚の回転刃で山の斜面に素早く穴をあけ、立ったまま苗木を挿入でき、身体の負担軽減と作業効率の向上に大きく貢献。誰でも使える新しい植栽スタイルをかなえた、「柾樹」開発への想いと経緯をここで少しお話ししましょう。

林業の現場における作業者の負担を軽減できないか?

森林が育つサイクルをつくりたい。そのために必要な道具をお客様とともに開発し、新しい林業スタイルをご提案していきたい。そうした想いから、2015年に森林保全部門をスタート。当初は、お客様が困っていた害獣対策用のネットや罠のケースを工業部門の技術をもとに提案していたが、徐々に林業が抱える現実問題を目の当たりにするようになってきた。農山村の過疎化、高齢化に伴う林業就労者(とりわけ若年層)の減少、狩猟者減少による害獣被害の増加など、状況はますます厳しくなる一方に思えた。

深刻な人手不足に何か打つ手はないだろうか。確かに、森林保全のための大型の重機などの開発は進んできている。けれど、日本の森林は急斜面の山々が多く、作業現場は狭い。そこで必要とされる道具の機械化は、後回しになってしまっているのでは? 植栽の現場でも話を伺ったところ、クワを使っての苗木植えの作業は100年以上変わっていないという。斜面を登りながら、クワで穴を掘り、1本1本丁寧に手で苗木を植えていく。屈んだり、立ったりを繰り返す、作業の身体的負担の大きさは容易に想像できた。

伐採の道具が斧からチェーンソーに変わったように、クワ植えによる植栽を機械化へ。実現できれば作業効率は上がり、作業者の負担も軽減されるのでは? そう考え、苗木植栽機の開発に着手することとなった。

安全性の確保と重量の軽減が、大きな課題に。

苗木を植える穴は、ドリルを使えば問題なく掘れるだろうとはじめは思っていた。しかし、これが大きな間違いだった。実際に掘ってみると、ドリルで掘れる穴は小さく、木の根などがからまってしまう事態も発生。しかも作業者が自らの体重をかけ地面を押すようにして穴をあけるため、ドリルからの反発力を受けることも想定され、急斜面での作業の安全性が懸念された。
さらに、もうひとつ、重量の問題も出てきた。ガソリンエンジンにドリルや刃を加えると、どうしても重くなってしまうのだ。試作機では10キロ近くもあった。当然、お客様にも「こんなに重くてはとても使い物にならない」といわれた。誰もが楽に安心して扱える苗木植栽機を実現するには、安全性と軽量化の課題を何としてもクリアしなければならなかった。

開発当初の試作品

課題解決には、実地検証を重ねるほかない。

お客様の植栽作業を実地検証する中から、課題解決の糸口を探っていくことに。実際にクワ植えを体験し、作業を分析し、そこに何が必要なのか。穴の大きさは? 形状は? 埋め戻しにはどんな土質が適しているか? など何度も何度も作業を繰り返し、確かめる。そこから、根や礫なども気にせず掘れるもの、表土ではなく中の真土を埋め戻しに使うといったことなどが見えてきた。
斜面に穴をあけるには、回転刃が最適。試行錯誤の結果、この結論に辿り着けたのが大きかった。回転刃であれば、立ったままきれいに穴があけられたのだ。さらに、刃の角度、材質などについて検討を重ね、20回以上の試作を繰り返し、土の掘りだし方、刃の切れ味、作業性、安全性の向上を追求していった。 同時に、ガソリンエンジン、回転刃、柄の軽量化も徹底。重さ5キロほど(投入機構なしの場合)までに軽減することができた。
これにより、苗木植栽の機械化が、現実のものとなったのだ。

試作した回転刃

まっすぐ苗木が育ってほしいという想いを込めて。

こうして誕生した苗木植栽機には、木の柾目の「柾」の字をもらい、「柾樹」と名づけた。木のいちばんいい柾目部分のように、まっすぐ苗木が育ってほしいという想いを込めて。

手植えに比べ作業を約1/2の時間で完了させられ、作業者の作業効率のアップと、1日の植栽本数の倍増が期待できる。高齢者や女性でも手軽に扱え、急斜面でも立ったままの植栽が可能で、安全かつ身体的負担を大幅に減らせる。
これまでの植栽スタイルを変える「柾樹」を、林業にかかわる多くのお客様に、ぜひ体感していただきたい。

森林保全部門では、現在もさらなる改良や新製品開発に向け、研究・試作をつづけている。「柾樹」、そして新たな機械化を通じ、林業の課題解決に少しでも貢献できたらとの想いのもとに。

完成した苗木植機 柾樹

開発当初の試作品

試作した回転刃